安全性Q&A
いつも食べているパンの安全性についてご存知ですか?
最近いろいろ気にしているけど、ちょっと難しそう!?なんて思っていませんか。
そんな気になる疑問にお答えします。
Q5 パンのトランス脂肪酸は?
不飽和脂肪酸の一種であるトランス脂肪酸は、その過剰摂取が虚血性心疾患のリスクを高めるという報告があり、心疾患の死亡者が多い欧米諸国では、その摂取量を減らすための規制が検討あるいは実施されています。日本においては、2011年2月、消費者庁から事業者の自主的な取り組みのためのガイドラインとして「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針」が公表されましたが、日本人のトランス脂肪酸摂取量は、欧米諸国と比較して比較的少ない傾向にあり、健康への影響は小さいと考えられます。
トランス脂肪酸は、マーガリンなどの加工油脂やこれらを原料として作られる食品などに含まれていることが知られています。パン類では、特にサクサク感、コク、しっとり感などが求められるデニッシュペストリーやドーナツなどの製品で、トランス脂肪酸を含む加工油脂の特徴が必要とされます。しかし、こういった製品は、嗜好品ですので、常食されているわけではなく、トランス脂肪酸の過剰摂取を問題にする必要性は低いといえます。また、パン業界においては、10年以上前からトランス脂肪酸の低減化に取り組んでおり、現在ではパン類の原材料油脂中のトランス脂肪酸は1/5から1/20まで低減化が図られています。
トランス脂肪酸とは?
日常摂取する主なトランス脂肪酸は、マーガリン、ショートニングなどの硬化油、脱臭のためシス型不飽和脂肪酸を200℃ 以上の高温で処理した食用植物油、乳や反すう動物の肉などに由来しています。
脂肪酸とは、油脂などの構成成分で、炭素(C)、水素(H)、酸素(O)で構成され、水素原子の結合した炭素原子が鎖状につながった構造となっているものです。脂肪酸は飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分類され、炭素と炭素が2つの手で結び付いた二重結合(不飽和)を一つ以上持っているものが不飽和脂肪酸と呼ばれます。さらに、不飽和脂肪酸は、二重結合の炭素に結び付く水素の向きでトランス型とシス型の2種類に分かれます。水素の結び付き方が互い違いになっている方をトランス型といい、同じ向きになっている方をシス型といいます。天然ではほとんどの場合、不飽和脂肪酸はシス型で存在します。
飽和脂肪酸中の炭素-炭素 一重結合
不飽和脂肪酸中の炭素-炭素 二重結合
「食品安全委員会資料より作成」
トランス脂肪酸の健康への影響
トランス脂肪酸は長期間の過剰摂取により、血中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を増やし、HDLコレステロール(善玉コレステロール)を減少させることが指摘されており、その結果として、動脈硬化などによる虚血性心疾患のリスクを高めるといわれておりますが、食生活、食習慣に応じて各国のトランス脂肪酸の摂取状況は大きく差があるとされております。
WHO(世界保健機関)とFAO(食糧農業機関)の「食事、栄養及び慢性疾患予防に関するWHO/FAOの合同専門家会合」では、心臓血管系の健康増進のため、食事からのトランス脂肪酸の摂取を極めて低く抑えるべきであり、最大でも一日当たりの総エネルギー摂取量の1%未満とするように勧告しています。
日本では、消費者庁が食品事業者に対しトランス脂肪酸を含む脂質に関する情報を自主的に開示する取り組みを促す目的で「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針」を公表しました(2011年2月21日)。また、「食品に含まれるトランス脂肪酸に関する食品健康影響評価(リスク評価)」(2012年3月、食品安全委員会より公表)および「トランス脂肪酸に関する取りまとめ」(2015年5月、消費者委員会より公表)によると、大多数の日本人のトランス脂肪酸摂取量はWHOの目標(勧告)を下回っており、脂質に偏った食事をしている人は留意する必要があるものの、通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられるとの見解が示されております。
2015年6月、FDA(米国食品医薬品庁)は、トランス脂肪酸が多く含まれる部分水素添加油脂は、GRAS(従来から使われており、安全が確認されている物質)ではないとし、食品に使用するためにはFDAの承認が新たに必要と決定しました。この動きを受けて、内閣府食品安全委員会は「食品に含まれるトランス脂肪酸の食品健康影響評価の状況について」を更新(2015年6月19日)し、日本でのトランス脂肪酸の平均摂取量が0.3%と米国の2.2%の1/7と少なく、WHOの目標である対総エネルギー摂取量の1%未満を下回っていることから、通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられるとの見解を示しています。
LDLコレステロール
LDLは、肝臓から体内の各部へコレステロールを運ぶ役割を担い、これが血中に増えすぎると、動脈硬化の原因となる。
HDLコレステロール
HDLは、細胞内や動脈内にある不要なコレステロールを取り込んで肝臓に戻す役割を持つ。細胞内へのLDL の取り込みを抑制する作用がある。
日本におけるトランス脂肪酸の摂取状況
トランス脂肪酸の摂取量については、食品安全委員会から公表されております。
1998年の調査では、日本人のトランス脂肪酸の摂取量は一日当たり平均1.56gとなっており、摂取エネルギーの0.7%に相当することが公表されました。さらに、その後の調査で、日本人の一日当たりの平均的なトランス脂肪酸の推計摂取量は、2006年、2010年ともに総エネルギー摂取量の0.3%であり、WHO/FAO合同専門家会合が目標とする一日当たりの総エネルギー摂取量の1%未満 注1)であることから、日本人のトランス脂肪酸摂取量は諸外国に比べて少ない傾向であることが報告されております。
注1)総エネルギー摂取量を2,200kcal/日とすると、計算上、その1%のエネルギーに相当するトランス脂肪酸量は2.4gとなる。
調査年 | 摂取量(g/人/日) | 一日当たりの総エネルギー摂取量に占める割合 | |
---|---|---|---|
米国 | 1988~1994年 | 5.8 | 2.6% |
EU | 1995~1996年 2004年 |
男1.2~6.7 女1.7~4.1 |
男0.5~2.1% 女0.8~1.9% 1〜2% |
日本 | 2006/2010年 | 0.7 | 0.3% |
注2) 食品安全委員会「食品中に含まれるトランス脂肪酸」評価書(2012年3月)より
参考) 食用加工油脂の国内生産量からのトランス脂肪酸摂取量の推計:
総エネルギー摂取量の0.7%(1998年)、0.6%(2006年)、0.7%(2008年)
パン製品のトランス脂肪酸について
パン類の原材料として使用されるマーガリンやショートニングなどの油脂には、大豆、菜種、とうもろこし、パームなどの植物に由来するものと、バターやラードなどのように動物に由来するものとがあります。これらの中で最も一般的に油糧原料として使用されている大豆、菜種、とうもろこしは常温で液状であることから、パン製造に適するよう固体状にしたマーガリンやショートニングが必要となります。これらの固形脂(硬化油)の製造過程において、シス型で存在していた不飽和脂肪酸の一部がトランス型の不飽和脂肪酸へ構造が変化することが知られています。この硬化油を使用することで、サクサク感、コク、しっとり感など、特にデニッシュペストリーやドーナツなどの製品に必要とされる特徴が付与されます。
トランス脂肪酸低減化への取り組み
油脂業界では近年のトランス脂肪酸に対する健康への影響の懸念から、平成10年代前半より低減化の検討を進めた結果、マーガリン、ショートニング、ドーナツ用フライオイル、ホイップクリームなどの、パン類の原材料として使用される多くの加工油脂製品で大幅なトランス脂肪酸量の低減化が図られています。トランス脂肪酸量低減に採用される代表的な手法としては、エステル交換技術、分別技術、結晶調整技術などが知られています。
なお、一般社団法人日本パン工業会では、2011年6月より、パン類の主だった製品中に含まれる、トランス脂肪酸等の栄養成分情報をホームページ上で公表しております。バランスのとれた食生活に配慮しつつ、おいしくパンを食べていただくための一助として、是非ご活用ください。
参考ページ・資料
■ 消費者庁ホームページ:トランス脂肪酸に関する情報
■ 食品安全委員会ホームページ:トランス脂肪酸について
■ 農林水産省ホームページ:トランス脂肪酸に関する情報
■ 日本パン工業会ホームページ:トランス脂肪酸等に関する情報開示について
■ 食品安全委員会:報道関係者との意見交換会資料「脂質の摂取〜トランス脂肪酸を理解するために〜」 (PDF:約1MB)
最終更新日:2016年7月10日